協会誌Vol.29/ No.3 (通巻95号)
特集「人工ボディ」
「特集「人工ボディ」にあたって」 中村 宣郎
「人工ボディそのものはその存在を主張してはいけません。きわめて普通に、最初からそこにあったものとして見られないといけないのです。」
『カケラを探して』 安藤 桃子
どうして今の仕事してるの?
欠けてる所を補いたいからかな。ほら、家の両親はさ、クリーニング屋で汚れた物をきれいにする仕事でしょ。そういう血なんだよ。
あのさ、お月様ってまんまるになるけど、一日だけだよ。あとはずっとかけてるんだよ。欠けてる月もきれいだよ。
これは、2010 年に公開した私の監督作品「カケラ」の中で、主人公リコがハルに言う、大切な台詞だ。
・・・。
一作目の映画「カケラ」では、病気や事故で失った乳房や耳など、身体の欠損部分を補う事で、心のカケラを埋める事に繋がる仕事、メディカルアーティストを取り上げた。
「リアル義手」 佐藤 洋二
「上肢・・・暮らしの中で、様々な作業を行う肢である。それゆえに欠損する可能性が高く、又それが露出されており、人目に付くという事。」・・・。「装飾義手とはただ失われた手指をリアルに作り上げるだけでなく、患者様の生活に溶け込み、精神に共鳴し、人生をも飾れる一体物。すなわち「無」になれるか。」
「人工乳房」 前田 茂臣
「よく聞くと数年前にお孫さんが生まれてその子と一緒に家族で温泉に行くときにおばあちゃんの胸がないことでショックを受けないようにしたいというのである。真の目的は「お孫さんと一緒に安心して温泉に入れること」である。」
「口腔顎顔面領域におけるエピテーゼ」 西川 圭吾
「エピテーゼとは腫瘍、外傷、炎症、先天奇形などが原因で生じた顎顔面を含む器質的な実質欠損を人工物で補?修復し形態的、審美的・整容的改善、患者の心理的不安の軽減をはかる装具です。」
「義眼」 厚沢 正幸
「義眼は美容上の目的だけではなく、涙液の流れを促進し、その結果眼窩の発育と保護にも役立つなど医学的にも重要である。」
「性同一性障害の方への人工ボディ」 福島 有佳子 木下 久美子
「対照的に女性から男性へ(FTM)の方からの相談は多い。理由としてはやはり手術の費用の問題に重ね、国内外においての手術の症例数が少ない為である。・・・。手術といった外科的な方ではなく、装着するという体への負担がない、人工ボディを考える人が多くなる。」
「顔面を取り戻す人工ボディ」 那須 誠
「同じ切断、切除でも機能的ハンディを補うための義足、義手は労災保険や障害者総合支援法など公費援助があるのに対し、先天的な形成不全を含む顔面欠損や乳房切除など審美性が優先される人工ボディには公費援助がないのが現状である。」
「人工ボディの復元性と機能性」 平野 まり子
「 「すごい!義指に見えない。本物そっくりだわあ!」と友人の一人が、私の左手の小指を見て大騒ぎ。他の友人に「見て!ほら凄いでしょ。」と言った瞬間、私は傷つき「見世物じゃないの。」と、反射的に手テーブルの下に引っ込めました。何も言わなければよかったと反省するばかり。私の義指は自然で目立たないことに価値があり、誰も気づかないから安心できるのです。しかしながら、別な見方をすれば、外面的に私の小指が復元された証でした。」
「小耳症の子供にとっての人工耳の意義」 永田 康子
「中学の入学式までに何とか仮の耳を送っていただき、新しい耳とともに、息子の中学生活は始まります。初めて耳をつけた日の第一声は「マスクがつけられる喜びをはじめて知った。」という言葉でした。そして、お世話になった技師さんへお礼の手紙の中では「僕は聞こえのことより、耳の形のことをずっと気にしていました。義耳ができて僕は自信を持つことが出来ました。」とつづられていました。」
「未来が教えてくれたこと」 小原 美佳
「今の自分には右手を着けている自分と着けていない自分の二つの自分がいます。私の感じた義手の魅力は義手を着けている時の前向きな気持ち、家に帰り義手を取った後のホッとする気持ち、そして自分の左手よりも義手の方がとても本物の手みたいで魅力的であるところだと感じました。」
「モノ作りを通した創造教育・想像教育」 寺川 万里子・石川 武志
「人工ボディについてはその日常を取り戻し、日々を過ごす喜びを提供する事が目的にあると感じます」